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東京家庭裁判所 平成11年(家)2533号 審判 1999年8月27日

申立人 X

遺言者 A

主文

遺言者が平成11年3月5日別紙記載の遺言をしたことを確認する。

理由

第1申立の趣旨

申立人は、主文同旨の審判を求めた。

第2当裁判所の判断

1  本件記録によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  遺言作成に至る経緯

<1> 遺言者(昭和15年○月○日生)は、昭和43年12月6日Bと夫の氏を称する婚を姻したが、同じマンションに居住していたC(大正3年○月○日生)と親しくなり、平成10年7月21日妻Bと協議離婚したうえ、同日Cと婚姻した。

<2> 遺言者は、離婚前から肝硬変を患っていたが、平成11年2月23日、肝硬変合併肝癌でa病院に入院したが、平成11年3月13日死亡した。

<3> 税理士でCの財産管理を行っていたDは、財産管理の過程で遺言者と知り合いとなり、遺言者から、入院の2、3か月まえに、自己の死後の前妻Bの扶養のことを考え全財産を同人に遺贈しようと考えていることを相談され、遺言していないと遺贈出来ないことや公正証書遺言の方法のあることを教えていた。なお、Dは、遺言者の保有する財産の内容を詳細には知らないが、マンションと多少の預貯金程度であろうと思っていた。

<4> Dは、遺言者の入院後、遺言者が遺言書を作成していないことを知り、翌週に公正証書遺言をすることの手配をしたうえ平成11年3月5日の夕方、遺言者の見舞いに行き、主治医から、病状からみて遺言者が3月8日までには死亡する可能性のあることを告げられ、仕事上の知り合いであった弁護士である申立人と電話で相談したうえ、遺言者に自筆証書遺書の作成をうながしたが、遺言者が「遺」という字を記載するのがやっとで、ペンを持つのにも体力を消耗するような様子であったため、再度申立人へ電話して助言を求め、申立人の指示で危急時遺言の方式で遺言書を作成することになり、証人には申立人とb税理士事務所の事務員E、Fに頼むことにして、午後6時頃電話で連絡した。全員が病院に到着したのはその30~40分後であった。

<5> Dは、証人候補者らが到着するまでの間、遺言作成の準備として、以前から遺言者に聞いていた遺言予定内容を下書きして、遺言者に読み聞かせたところ、遺言者は寝たままうなずく仕草をしたのでその内容の遺言をすることで間違いないと考えた。なお、遺言者が口中に止血のためと思われる脱脂綿を含んでいて「うー」とか「んー」などしか声を発することができず、脱脂綿を取ることも相当でないと思えたため、遺言者にしゃべらせることは控えた。

(2)  遺言者作成時の状況

申立人、E、Fが病院に到着後、直ちに全員で遺言者の病室に行き遺言作成手続に入った。Dが予め記載していた前記書面を読み上げたうえ、そのとおりの遺言をすることで差し支えないかを確認したところ、遺言者が寝たままうなずき手の指で丸い輪を作って了解したことを示す「OK」と思われる仕草をした。申立人から、同書面は証人の署名欄が不足していたことや全員がそろう前に記載がなされていて相当ではないとの助言があったので、Dが申立人が所持していたB5版の用紙に別紙遺言書記載のとおり書き直した後、改めて記載内容を遺言者に読み聞かせて遺言内容が間違いないか確認したところ、遺言者は再度寝たままうなずき、左手の指で丸い輪を作り了解したことを示す「OK」と思われる仕草をした。さらに申立人が遺言者に同書面を読み聞かせて遺言内容が間違いないか確認すると、遺言者は再度うなずいた。そして、E、Fも読み聞かせた内容と書面に記載された内容が同一であることを確認して、D、E、F、申立人の順で証人として遺言内容の末尾に署名捺印し遺言書を完成させた。

なお、当時遺言者が入院していた病室は6人部屋で、それぞれのベッドに患者がおり、遺言者のベッドはカーテンで仕切られていた。

(3)  遺言当日などの遺言者の健康状態

遺言者の主治医であるGによれば、平成11年3月5日の午前中の検診時における遺言者の病状は、体力面は著しく弱っていたが、意識障害はまだなく、見たことや聞いたことについて自分の意思を示すことは出来る状態であったが、口内からの出血を押さえるため、口に脱脂綿を含ませていたので普通に喋ることは難しかった、また、体力も著しく弱っていたので、続けて喋ることは難しかったと思われるということである。

(4)  遺言者の死亡

遺言者は、同月6日の夜から7日の朝にかけて、意識障害の初期症状である軽眠傾向が見られるようになり、病状がさらに悪化した9日に個室に移され、13日に死亡した。

(5)  証人の欠格事由

記録上、申立人、D、E及びFに証人としての欠格事由を見いだすことはできない。

2  判断

以上の事実関係によれば、本件の遺言において法の要求する遺言者の口授があったと言えるかどうか疑問がないわけではないが、本件の遺言内容がきわめて単純であること、記載したDにおいて以前から遺言者の遺言したい内容を承知していてその作成方法の助言などもしていたこと、遺言者は病状から出血に備えて口中に脱脂綿などを含んでいたものの意識及び遺言をしたいとの意欲や意思能力は備えていたこと、Dが遺言書作成の前後に記載内容を遺言者に読み聞かせたうえ遺言者が、遺言をすることも含め、その内容を理解して了解したことを手指やうなずくなどの方法で明確にしていることを総合すると、口授がない不適法な遺言として本件申立を却下するのは相当ではない。

3  結論

よって、別紙記載の遺言を確認することとして、主文のとおり審判する。

(家事審判官 石田敏明)

(別紙)

遺言書

私は左記の者に、私の全ての財産を遺贈する。

東京都杉並区<以下省略>

平成十一年三月五日

東京都杉並区<以下省略>

証人Dは遺言者による口授を右の通り筆記し、遺言者及び他の証人に読み聞かせたところ、遺言者及び証人のすべてが筆記の正確なることを承認した。

右同日

D<印>

E<印>

F<印>

X<印>

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